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そんなには褒めないよ。映画評

ミニシアター系映画レビュー*沈黙する言葉

映画タイトルの50音順メニュー作りました!

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映画『灼熱』3つの時代の3組の恋人たちがひとつの物語を紡ぎ出す。「争い」「迷い」そして「許し」

映画

1990年に始まり、その後10年にわたったユーゴスラビア紛争は、これまで幾度も映画になっていますし、多分これからも様々な視点からの映画が作られていくことでしょう。

スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コソボ、マケドニア。

それぞれその下に「紛争」がつくわけですが、遠く離れて新聞やネットの情報を見ているだけでは、何が何やらよく分からないのが正直なところです。

 

監督・脚本: ダリボル・マタニッチ

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クロアチア紛争前夜、悲運をたどる1991年の恋人たちイェレナとイヴァン、紛争終結後の2001年、互いの民族を憎みながらも激しく惹かれあうナタシャとアンテ、そして平和を取り戻した2011年、過去を乗り越えようとする若きふたりマリヤとルカ。3つの時代の恋人を同じ俳優が演じることで、時代を越えてひとつの愛が紡がれる様を見事に表現。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞。(公式サイト

 

この『灼熱』は、引用のあらすじにあるようにクロアチア紛争を扱ってはいるのですが、紛争そのものを描いてはおらず、クロアチアとセルビアの民族対立に翻弄される男女を、1991年、2001年、2011年の10年毎三つの時代で描いています。

セルビア人の女性、クロアチア人の男性、それぞれ3組の恋人たちは全く別の人物設定なんですが、同じ俳優がそのままの年齢で演じていることもあり、また、それぞれの物語が極めてシンプルですので、あたかもひとつの物語であるかのような印象を受けます。

 

一つ目の物語の時代背景は、今にも紛争が勃発しそうな緊迫した状況です。これがなかなか島国に住む我々には実感しにくい、つまり隣合わせの村同士が反発し合い、その間にバリケードが敷かれ、銃を持った兵士(民兵?)が向かい合うといった状況にあります。

愛し合う二人は、そうした状況から逃れて街で暮らそうと考えるのですが、まさに脱出のその日に、女を行かせまいとする女の兄とのいざこざの中で男が撃たれて死んでしまい、悲しみと憎しみと、そして絶望が入り交じった女の絶叫の中で物語は終わります。

この一つ目の物語は、シンプルに、象徴的に、わかりやく描かれています。

 

10年後、セルビア人の女が母とともに住み慣れた家に戻ってきます。住まいは戦火によって見る影もなく、そのままでは住み続けることはできません。母はクロアチア人の修理工に家の修理を依頼します。

女は、敵であるクロアチアに兄を殺され、その恨みとやるせない思いに、母にさえ当たり散らす日々、男とは言葉をかわそうともしません。

男は、淡々と仕事をこなしてはいますが、敵であるセルビアに父を殺され、今は母の面倒を見て暮らしています。

女と男は、共に惹かれ合ってはいます(と公式サイトにある)が、争いのわだかまりのためか言葉をかわすことのない日々が続きます。

家の修理が終わろうとする日、女は男への思いが抑えきれなくなったのか、自ら男に体を求め、二人は激しく抱き合います。

ことが終わり、男は女へ「愛」を求めますが、女は「これっきりよ(のようなセリフでした)」と自らの思いを断ち切るかのように言い放ち、二つ目の物語が終わります。

この二つ目の物語が、実は最も映画らしい部分で、とてもいいシーンが続くのですが、なかなか二人の思いが伝わってこず、前後のシンプルな物語に挟まれて、結果としてわかりづらく、単調な印象となってしまっているのがこの映画の問題点だと思います。

 

そして三つ目の物語、争いの時代から10年余り、街の大学に通う男が、自らは望んでいませんが、友人の誘いに任せ、実は帰りたくないと思っている自分が育った村へ帰ります。

村には、かつての恋人、そして男の幼い子供と暮らす女がいます。二人は愛し合い、子供をもうけた(授かった?)のですが、親の反対で、男は逃げるように街へ去った過去があるようです。

男は女を訪ねます。女は、驚き、とまどい、そして男を拒絶します。

男と友人たちがこの村にやってきたのは、村の海岸沿いで開かれるレイブパーティーのためです。夜通しのパーティーが終わり、男は再び女の家を訪ねます。

男は、様々の思いを抱え、女の家の前にうずくまります。窓越しにその姿を認めた女は、入口のドアに向かいます。そして静かにドアを開けます。

三つ目の物語も極めてシンプルで、象徴的に描かれたラストはとてもいいシーンです。

 

この『灼熱』は、「争い」「迷い」そして「許し」が象徴的に描かれており、 長い民族紛争を経験してきたクロアチア人(だと思う)監督ダリボル・マタニッチさんの未来への願いを込めたメッセージなんだと思います。

ただ残念なのは、物語のベースとなるべき民族間の憎悪感情がうまく伝わってこないことです。特に二つ目の物語では、その憎悪があるものとして見ないとなかなか女の思いがわからず、また男女間の惹かれ合う感情もあまり感じられず、やや冗漫な感じがします。

 

隣同士の村が銃を取ってまで争う、そのことを実感として感じられない者には、二つ目、三つ目の物語は、単なる男女の愛憎物語として映ってしまうところがあり、なかなかその背景にある様々な思いは感じにくいのではないかと思います。

 

いずれにしても、現実世界において、この映画のような「和解」が進んでいるのであればいいのですが…。

 

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