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そんなには褒めないよ。映画評

ミニシアター系映画レビュー*沈黙する言葉

映画タイトルの50音順メニュー作りました!

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「名もなき塀の中の王/デビッド・マッケンジー監督」 ジャック・オコンネルのエリック、触るとやけどしそうなくらいのひりひり感がとてもいい!

映画

刑務所を舞台にした映画にハズレはない(かも?)ですね。

記憶に新しいところでは「預言者」「タンゴ・リブレ 君を想う」、刑務所の中だけの話ではありませんが、「愛について、ある土曜日の面会室」、最近見た映画で何かもうひとつあったような気がしますが思い出せません。

暴力や犯罪ものはドラマになりやすいとか、閉鎖空間ですから濃密な人間関係を描きやすいとか、そうしたことがあるのかも知れません。

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生々しいバイオレンスと容赦なき世界でのサバイバル。闇と暴力に支配された刑務所を舞台に、愛を知らず暴力でしか自分を示せなかった不良少年が、不器用ながらも初めて他人と真剣に向き合い、失われた絆を回復させ、生きる希望を見つけていく様を、骨太かつ鋭利なリアリズムで鮮烈に描く。(公式サイト

 

この映画も、あふれる怒り、暴力、力による支配、同性愛、そして父と子と、確かに熱量は高く、人間関係は濃密です。

ただ、映画は、怒りを抑えるすべを知らないエリック(ジャック・オコンネル)が収監されるところから始まりますから、初っ端からひりひりした空気が漂い暴力の香りが色濃いのですが、どうやらエリックが来るまでは囚人間の主従関係も出来上がっており、看守との関係も、あまりはっきり描かれていませんが、何がしかの取引があり、うまく築かれていたようです。

その安定した大人の社会を、体はでかくとも自分をコントロール出来ない子供のエリックがぶち壊します。エリックには周りは全て敵に見えるようです。部屋に入れられるやいなや、いざという時のためでしょう、隠し持っていたカミソリを慣れた手つきでナイフ風に仕立て上げ(これ、へぇすごいって思います)、天井に隠したりします。

といった感じで、エリックがあれやこれやの暴力沙汰を起こしていくのですが、このエリックを演っているジャック・オコンネルさん、いいですね。闘争心むき出しというか、怒りを抑えるすべを知らない若者をうまく演じていました。いや、演じるというよりもイギリスのワルガキそのものでした。

名前でググってみましたら、

こんな写真がありましたが、マジですか!?って感じで別人です。こういう俳優さんは期待できます。「unbroken」の主演なんですね。

で、映画には、イギリスの刑務所ってあんなに自由?とか、囚人のボスは何故あんなに力を持っているのか?とか、囚人と看守との間に何があるの?とか、いろいろ腑に落ちないところはあるのですが、そうしたことは置いておいても、エリックの触るとやけどしそうなひりひり感で充分持ちます。

それに、意外な発想で面白かったのは刑務所内で父子関係を描こうとしていたことです。その刑務所にはすでに父親が入っており、囚人ヒエラルキーのナンバー2あたりにいるらしく、囚人社会の安定を乱す息子を力で押さえつけようとして逆に問題を起こしたりと、中盤辺りから、ああこの父子関係がこの映画の軸かとわかってきます。

さらにその父親が、刑務所ゆえの代替行為かも知れませんが同性と性愛関係にあるとエリックが知ったり、エリックが幼い頃に幼児性愛者の対象にされたトラウマを抱えていることなどの話が織り交ぜられます。

何やら相当に濃いい話のように思われそうですが、それが意外とあっさりしているんです。暴力行為も目を背けたくなるような嫌な感じはしませんし、父親の性愛を知ったエリックもさほどショックを受けたように描かれていませんし、多分デビッド・マッケンジー監督は優しい人なんでしょう、映画に陰湿さや暗さが全くありません。

エリックの部屋の窓、刑務所ですからかなり高いところに小さなものしかありませんが、その窓から日が差し込む様子を後光が差すような処理をして撮ったカットが幾度かあり、最後近くにそのカットの中であることが起きるのですが、その辺りを象徴的に扱っているようなところもありますので、監督に何か宗教的な思いでもあるのかもしれません。

それにしても、こういう映画は日本人には絶対に撮れない感じがします。

まず言葉です。すべての単語に Fワードがついているのではないかと思うくらい F**k, F**k と連発されます。英語を母国語にしている人にどんな感じに聞こえるんでしょう?

日本語にはそんな言葉ってないですよね。私が知らないだけかも知れませんが、せいぜいが北野武監督の「ばかやろう!」くらいでしょう。

それに何と言っても日本の刑務所映画というと「網走番外地」ですし(笑)、どうしても健さんのストイックなイメージが浮かんでしまいます。

まあ一神教文化の悪は日常的であっても相手が同胞であれば最後は抑制的になりますが、八百万の神文化の悪は発火点は高くとも一旦火がつくと留まるところを知らない自己破壊的な悪ですから、と(笑)意味不明なことを言っています。

ということで、結構いい映画だったんですが、やや薄味で、ジャック・オコンネル以外、あるいは記憶に残らないかもしれない感じではあります。