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そんなには褒めないよ。映画評

ミニシアター系映画レビュー*沈黙する言葉

映画タイトルの50音順メニュー作りました!

当サイトおすすめ映画直近の4作品

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「少年と自転車/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督」映画的には地味なのに、いつの間にかスクリーンに吸い寄せられ、凝視せざるを得なくなってしまう

映画

ベルギーの兄弟監督、ジャン=ピエール・ダルデンヌとリュック・ダルデンヌ、練りに練って撮るタイプのようで、世界的に知られるようになった「イゴールの約束(1996)」以来、およそ3年ごとの新作発表です。「ロゼッタ(1999)」「息子のまなざし(2002)」「ある子供(2005)」「ロルナの祈り(2008)」そして2011年の本作「少年と自転車」、それらすべてがカンヌで何らの賞を受賞、うち2作はパルムドールという凄さです。本作はグランプリを受賞しています。

映画祭での受賞が即映画の優劣に直結するわけではないでしょうが、それにしてもすごい経歴です。

あいにく「イゴールの約束」だけは未見ですが、どの作品もそのパワーに圧倒させられます。もちろん、パワーと言っても派手さやダイナミックさではなく、むしろ映画的には地味なのに、いつの間にかスクリーンに吸い寄せられ、凝視せざるを得なくなっているといった力強さです。本作の場合も、冒頭から、逃げ回るシリルを追いかける激しいカメラの動きでぐいぐい引き込んでいきます。全く無駄のない緻密に計算された映像です。

なぜこういう画が撮れるのだろうと考えてみると、劇映画を撮るようになるまで長くドキュメンタリーを撮っていたとの経歴に思い当たります。一般にドキュメンタリーは、被写体が人であれ、モノであれ、コトであれ、対象に対して対峙しつつ(カメラで)凝視し続けることでドラマが生まれ映像作品として成立するといった側面があり、そうした考え方や映像技法が、劇映画を撮るようになってからも生きているのではないかと思います。

撮りたいものから決して目を離さない、本作の場合もカメラはシリルを執拗なまでに追い続けます。

父親によって養護施設(だと思う)に入れられたシリル(トマ・ドレ)は自分の自転車が家にあるはずだからと施設の大人たちの静止を振り切り逃げ回ります。その激しい動きを、特別に手持ちカメラであることを誇張しない、スピード感はあってもブレのない自然な動きで丁寧にとらえていきます。シリルは家に戻ったもののすでに父親はどこかへ引っ越してしまい、自転車も父親によって売り払われたことを知ります。

カメラは、シリルの落胆、戸惑い、悲しみ、怒り、あらゆる感情の入り交じった表情をとらえます。しかし、ここで重要なことは、そのカメラが(監督の眼が)、同情も、あるいは批判の眼を持っていないことです。ただ、静かにじっとただとらえるのみです。

シリルをかわいそうだと思う人もいるでしょう、また、そのわがまま加減にイライラする人もいるでしょう。何も語っていないようにみえるカメラが、逆に、見るものの様々な感情を呼び覚ますのです。

必死に(本当に必死に)自転車を取りに家へ戻ろうとする過程で出会ったサマンサ(セシル・ドゥ・フランス)という女性が自転車を買い戻し届けてくれます。唐突ともいえるこの展開も意外にも自然に流れていき、さらにシリルはサマンサに週末の里親になってほしいと頼みます。このシーンも自転車と車の動きを使ってシリルの心の動きをうまく表現しているとてもいいシーンです。思わず頷くサマンサの気持ちが違和感なくスムーズに理解できます。

サマンサと共に父親を捜し当てはしますが、(観客の)予想通り父親はすでにシリルを見捨てており、「もう来るな」と突き放します。この父親を演じているのが「ある子供」のジェレミー・レニエというのも実に意味深く、さらに遡れば「イゴールの約束」との関連も意図的なのかも知れません。

で、結局、中盤はシリルとサマンサの二人の関係に焦点を合わせて進んでいきますが、シリルのみせる反抗的なすねた感じと押さえた甘えがとてもリアルで、トマ・ドレ君の演技にはうなってしまいます。すねて、サマンサが止めなさいというのも聞かず、幾度も水道の蛇口をひねり水を出しっぱなしにするシーンは、相当印象的です。

サマンサの人物像もとてもうまくできています。サマンサには恋人がいるのですが、シリルが二人の間に入ることで微妙なずれが生まれ、男が「自分とシリルとどちらを取るのだ?」と詰問する結果になります。サマンサはシリルを選ぶのですが、多分サマンサ自身にもなぜ自分が恋人を捨ててまでシリルにこだわるのかよく分かっていないと思います。現実にはよくある感覚だと思いますが、それが実にうまく描かれています。

このあたりも全く隙のない緻密な演出がされていると感じます。

後半にかけては、ある少年との出会いによってシリルが強盗事件の加害者となっていく過程とその後のシリルの変化が描かれていき、ラストはかなり唐突に終わります。

このエンディングはシリルの自立への第一歩のように感じますが、それとてはっきりしたものではなく、シリルが自転車で走り去る姿がとらえられるのみです。まだまだ満たされない少年を描くことへのこだわりがダルデンヌ兄弟には消えていないようです。